紅筆便り
石川 啄木
大吹雪後十有余日全道の交通杜絶も既に復旧したる今日編輯局と粋界との無線電信が依然不通なりとの申訳も立つまじく此頃の御無沙汰誠に/\相済不申候▲けふは一つ喜望楼の桃ちやんが自作の都々逸といふを御披露仕り候はんか曰く
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すいも甘いも身にありながら
色づけやはだかになる蜜柑
すいたお前につひ仕込まれて
野暮をさつぱり洗ひ髪 |
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前の方の蜜柑の歌は情調共に緊切若し果してもゝちやんが自ら作れるものとすれば天晴の名吟とも申すべく其詩才転た愛すべしと只今記者をお訪ねなされたる或人の頻りに賞められ候▲同じ人の同じ唇を洩れたもの乍らサノサ節の方は聯か品の落ちた傾きあり中に一つ二つ、
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添はずとも何であなたを恨みましよ、たとへお側の下女なりと御用をたしてもネいとやせぬ、お側に居たいのが身の願ひ
今さらに私も芸者の身でなけれや、すいたお方と何処まで新婚旅行をしたとても誰に憚る事もない。 |
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この外自作の唄沢山ある由なれど今日はこれにてあら/\かしこ。
(釧路新聞 明治四十一年三月二十一日)
底本:石川啄木全集 第8巻
筑摩書房
1979(昭和54)年1月30日初版
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入力:新谷保人
2006年3月21日公開
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