紅筆便り
 
石川 啄木
 
 
 
 
▲据膳食はぬは男の恥食はせた方には罪がない食はせた方は結局悪と悟入したか什麼(どう)か丸五のよし子姐さんは先日同楼を引払つて真砂町は前田廻送店裏の八畳の座敷に頭痛膏をコメカミに貼つてこりや什麼(どう)したらよからうなと思入の態▲二三子が飛び出しよし子が逃出した丸五の空巣へ此度このたび天降つた美形は名は知らぬが原籍も知らぬ▲見番の菊寿、五郎、鈴子の座敷着を此度いよ/\新調したさうだ代価三人前で勿驚七百六十円▲ダガ此三嬌姉妹は何所へ往つても焼け出ださるゝとは余り人を岡焼させる崇りか知らんが函館でも焼け今又釧路でも焼き出された▲昨朝見番火中に包まれた時日三味線三本を担ぎ出した奇特の主は月があつたさうだ。
 
 
(釧路新聞 明治四十一年二月九日)

 

  底本:石川啄木全集 第8巻
    筑摩書房
    1979(昭和54)年1月30日初版
 

  入力:新谷保人
  2006年2月9日公開