遭難船舶状報一束
 
石川 啄木
 
 
 
 
▲大信丸(百九十七噸六九) 去月下旬カバフトマウカヘ輸送すべき鰊、釜、石油及雑貨類を搭載して当港を抜錨したる。同船は去る六日(大時化当日)マウカに着したりしも港内風浪高くして碇泊する能はず。海馬島へ避難の途中、激浪の為甲板上の石油、鰊、釜を浚はれ且つ右舷の欄干を破壊されしが、他に別段の損害なく、一昨日正午無事当港に帰港せり。
▲天塩川丸 行方不明の噂ありし同船は過日の大時化の際は大泊港に難を避け居り、波浪収まるを待ちて抜錨し、一昨日午後二時、無事目的地たるマウカに着し目下荷役中との電報達したり。
▲第二凌波丸 同船は舵機を損じて舟体操縦の自由を失ひ辛じて増毛に避難し居りしが、第一凌波丸救助に赴き曳船となりて小樽に帰航中。
▲海国丸 無事マウカにあり。
▲巴港丸 マウカヘ向け航海中の同船は、七日午前二時、礼文島鴛泊(をしどまり)港に碇泊中、錨鎖二条共怒濤の為めに切断され風浪の弄ぶ所となりて遂に岩礁に触れ大破を蒙りしが、其際水夫末田勝太郎、ボーイ花町由蔵の二名溺死したり。
 
 
(小樽日報 明治四十年十二月十一日・第四十三号)

 

  底本:石川啄木全集 第8巻
    筑摩書房
    1979(昭和54)年1月30日初版
 

  入力:新谷保人
  2005年12月11日公開