雪の夜

                     山田穂波


 

音なくともる燈火(ともしび)

光ほのかに筆(こほ)

師走(しはす)なかばの()はふけて

戸外(とのも)は雪のつもるらむ

 

あゝかゝる()故郷(ふるさと)

(めぐ)少女(をとめ)(ほだ)()いて

(きぬた)の響きゆるやかに

旅ゆく人を思ふらむ

 

はた(また)山路(やまぢ)ゆきなやむ

札所(ふだしよ)まはりの巡礼(じゆんれい)

小笠(をがさ)につもる雪重み

面影(おもかげ)の子や(しの)ぶらむ

 

窓うち()けて(なが)むれば

巷々(ちまたちまた)(みち)(しろ)

人影(ひとかげ)もなき大逵(おほどほり)

軒燈(けんどう)()(かす)かなる

 

此処(ここ)にさまよふ犬の子の

姿ぞあはれ蹣珊(まんさん)

さながら似たりたよりなき

人の心のわびしさに

 

[小樽日報 明治四十年十二月四日・第三十七号]


※テキスト/石川啄木全集・第8巻(筑摩書房 昭和54年) 入力/新谷保人

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