歳暮贈答品に就て
 
石川 啄木
 
 
 
 
 丁未の歳も既に師走に入りて市中何となく景気立ちたると共に、歳暮の贈答品何が好からん彼が好からんと奥様方には今から心配する向もあるべきが、例年本月中旬頃でなくては相場が定らぬ事とて確かな所は判明り難けれど、今試みに区内主なる二三店に就きて聞合せたるに▲蜜柑は本揚が八十銭より七十五銭迄、並品は七十銭、小函は五十五銭迄▲筋子粕漬は七十五銭▲数の子粕漬七十五銭▲塩数の子五升入一円▲牛肉大和煮缶詰二十銭より四十銭迄各種▲豆類は小豆十二銭、丸鶉十二銭等にて、鮭、鱒、鱈、丹波栗、砂糖、青物等は未だ相場立たざる由。尤も以上の各値段も中旬頃には多少の変動を来すべく、蜜柑(みかん)の如き例年三十万函に上る由なるも現在の所未だ四五万しか来て居らぬとの事なり。
 
 
(小樽日報 明治四十年十二月四日・第三十七号)

 

  底本:石川啄木全集 第8巻
    筑摩書房
    1979(昭和54)年1月30日初版
 

  入力:新谷保人
  2005年12月4日公開