小樽道路改善に就て
 
石川 啄木
 
 
 
 
 (某有志談)
 
 小樽の市街は天下の悪路なり。之が改善は当局者を初め心ある者の何れも苦心せる処なるが、何故に当区の道路のみが斯く悪しきかといふに、是土質の如何に由るものにして必ずしも其修築を怠りたるが為に非ず。既に土質悪く且本道の諸貨物集散場たる関係上荷馬車の通行夥(おびた)だしきが為め、区は毎年約二万円を払つて之が改善を計りつゝあるも殆んど其効を見ず。或人は荷馬車の積荷に一定の制限を設けなば多少街路の破壊を防ぐを得んといへど、積荷の多少は馬匹(ばひつ)の強弱に依りて異なるべく、且つ一々積荷を検査するが如きは云ふべくして遂に行ふべからざる事に属す。又一説あり、荷馬車屋に特別に課税し其収益を以て道路修築費に宛つべしと云へど、これ徒らに荷主をして負担多からしむるものにして、区の発達の為めに慶すべからざる結果を来すの恐なしとせず。吾人の見る所にては、道路修築に先立ちて先づ荷馬車の車輪を大きくし且つ其轍(わだち)を現在の二倍位に広くせしむるが最も時宜に適した手段なるが如し。斯くする時は道路に布(し)き詰めたるバラスに喰ひ入りて却(かへ)つて其平坦を破壊する恐れなく、従つて多少道路の改善に益する所あるべし、且つ此車輪の改造は一輌に就て四五円を要するに過ぎざれば馬車屋にとりても必ずしも過重なる負担にあらざるべし云々。
 
 
(小樽日報 明治四十年十一月二十六日・第三十号)

 

  底本:石川啄木全集 第8巻
    筑摩書房
    1979(昭和54)年1月30日初版
 

  入力:新谷保人
  2005年11月26日公開