敗徳教育者
 
石川 啄木
 
 
 
 
 鹿爪らしく髯をひねくつて仁義忠孝を説けども根が木石にあらねば幾何教育者だとて然う真面目で許り居られるものかと理屈をつける者もあるか知れぬが、苟くも一校の師長たりし者にして獣の如き所業をするとは書くだに浅間しき心地せらる。休職目梨郡春刈古丹小学校長平田詳記と云ふは、本年三月中元召使たりし一寸渋皮の脱(む)けたお何(一七)なる尻軽者にあるべからざる事をし此事何日しか噂に上りて物議を醸したるは教育界の体面を汚辱したるものなりとの理由にて去る五日譴責処分を享けたりといふが、毎々の事乍ら斯る醜聞の伝はる事誠に嘆かはしき次第といふべし。
 
 
(小樽日報 明治四十年十一月七日・第十五号)

 

  底本:石川啄木全集 第8巻
    筑摩書房
    1979(昭和54)年1月30日初版
 

  入力:新谷保人
  2005年11月7日公開