長途騎乗隊小樽通過
 
石川 啄木
 
 
 
 
 予報の如く、第七師団騎兵函館旭川間長途騎乗隊は咋日小樽を通過する筈なりしを以て、区役所より兵事係寺田主任以下三氏、軍人共義会よりは北垣中尉、菊田少尉の二氏、昧爽塩谷街道上字長橋に出張して旧旗を樹(た)て慰労の準備をなし居りしに、午前五時三十五分に至り暁霧を破つて馬蹄の響勇ましく第一班六騎到着、人馬共意気甚だ旺盛、休憩五分間にして直ちに北方に向ひ去れり。其後五分、更に鉄馬朝風に嘶いて第二班六騎着、十分間の休憩を取りて長鞭一揮第一班の後を追ひしが、両班共一人の落伍なく又毫も疲労の状なくして殆んど昼夜幾十里を馳駆し来りしものと見えざりし。第三班は午後一時三十分に至りて漸く着、前両班に後るる事約八時間、疲労著しく意気甚だ消沈の状なりしも、休憩僅か五分問にして出発したり。区役所にては区長の名を以て一行に乾菓(びすけつと)一包づゝ、共義会よりは乎巾(てきん)一枚づゝ寄贈したる由。尚班前晩の宿泊地は、第一班第二班は余市、第三班は真狩なりし由。
 
 
(小樽日報 明治四十年十一月一日・第十号)

 

  底本:石川啄木全集 第8巻
    筑摩書房
    1979(昭和54)年1月30日初版
 

  入力:新谷保人
  2005年11月1日公開