一家三人の入獄
 
石川 啄木
 
 
 
 
 前と後同じ胴の両面ながら、へそも乳房も前に許りあり、物は片寄り勝なもの。世の中は類を以て集るもの、女郎屋に貞操を守る娘なく銀行に算盤とれぬものなしと相場は定まつて居れど、親子三人皆悪党者とは物騒極る話なり。花園町十四番地栗山文治(五一)といふは内縁の妻嶋根フユ(四〇)との間に文雄といふ長男あり。大抵ならば自分も日傭なり何なりして忰は活版屋にでも見習ひに出し後世安楽を心掛くべき筈なるに、文治は本年五月中に臓物寄贈犯にて重禁錮二年監視六ケ月の処刑を享け目下札幌監獄にありて苦役中なるが、フユは昨紙に報じたる小樽荒しの大盗丸谷勇松と共謀して臓物買却に尽力したる罪にて昨日重禁錮ニケ月監視六ケ月の宣告を享け、蛇の子は蛇なる文雄も区内数ケ所にて窃盗を働きたる事発覚して一昨日検挙されしが、年に似合はぬ頭曲りにて仲々剛情を張りて白状せぬため、取敢へず一定の住所なく方々ウロツキ廻りし科にて浮浪罪に落され十日の拘留に処せられたる由。親子三人共警察の厄介になるとは随分執念深い手数のかゝる奴等なり。
 
 
(小樽日報 明治四十年十月二十七日・第六号)

 

  底本:石川啄木全集 第8巻
    筑摩書房
    1979(昭和54)年1月30日初版
 

  入力:新谷保人
  2005年10月27日公開