えんげい
恵比須亭の演芸会
石川 啄木
区内稲穂見番が催主となり天狗連の後推しにて一昨夜より催したる恵比須亭の演芸会は仲々の景気にて、初日は場内立錐の地もなき大入なりし。記者の覗いたるは中西テル藤本リンの二嬢が子宝三番の最中にて、テル子の踊振水際立ちて器用なるは可愛い程なりしが、語物一番目可楽の弁慶上使の段は万国一と大向から評したものあり、拙さ加減お話にならず、嘲罵冷評潮の如く騒々しさ限りなければ、三味線の姐さんに気の毒でたまらず早速お暇としたる次第。但し其後の物は皆相応に喉のある語手にて聴衆も満足なりしと云へば、昨夜も今晩も大入は疑ひなかるべし。因に開演三日間の語物順序は左の如し。
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初日 弁慶上使(可楽) 日吉丸三段(小春) 玉藻前三段(高助) 新内蘭蝶(福市) 皿
屋敷青山(小梶)
二日 勘作住家(柳) 二度清書(奴) 三十三間堂(小市) 加賀見山七ツ目(初吉) 帯
やの段(小梶)
三日 弁慶上使(可楽、柳) 三浦介別(市子) 梅由長吉殺(はじめ) 合邦辻(小竹)
毛谷むら(小〆) 安達原三段目(梅子) |
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(小樽日報 明治四十年十月二十四日・第三号)
底本:石川啄木全集 第8巻
筑摩書房
1979(昭和54)年1月30日初版
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入力:新谷保人
2005年12月5日公開
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