山崎涛声
しとしと降る春雨(はるさめ)に、
しつぽり濡(ぬ)れた瑠璃色(るりいろ)の
春燕(はるつばくらめ)しよんがいな、
去年(こぞ)の古巣(ふるす)をたづね来て
此家(こち)の軒端(のきば)に子を生んだ、
それも昨日(きのふ)と思ふたに、
今日(けふ)は初秋雨(はつあきさめ)がふる、
つめたい雨に濡れ/\て
秋燕(あきつばくらめ)、しよんがいな
親鳥(おやとり)子鳥(ことり)むつましく
南の空へ飛んで去(い)ぬ
さびしいものだよ独身者(ひとりみ)は。
[小樽日報 明治四十年十月二十四日・第三号]
※テキスト/石川啄木全集・第8巻(筑摩書房 昭和54年) 入力/新谷保人