小樽区長と教育
 
石川 啄木
 
 
 名小樽の現在及将来に於ける教育機関の設備に対し、椿区長は社員に対し左の如く物語られたり。
▲小学教育機関に就て 小樽に於ける普通教育機関は、市中に丘陵起伏して児童通学の不便他に多く類なきに不拘、学校の配置及び設備当を得てよく地勢に適し毫も其不便を感ぜざるものゝ如し。是れらは区が新開の市街にして敷地の撰定に比較的自由なりし結果なるべく、児童出席歩合は百人中九十七八人に達し居れり。区役所にて調査したる来年度児童収容予定調(しらべ)によれば、来学年に於て千三百名の増員を見るべきなるが、右に対する設備としては色内校を改築し又潮見台校に増築中なれば充分収容の見込あり。且つ既に土地盛りに着手せる手宮高等小学校も来年度に於て竣工すべければ、新たに予算を起して校数を増す必要はなかるべしと信ず。
▲図書館問題 図書館は商業的通俗図書館とし、館長には時々区の青年を集めて有益なる講話をなし得る位の人を択び、一週一回位宛館内に講話会を開きて商業教育の科外機関たる性質を帯ばしめ、又主に冬季に於ける集会場娯楽場として夏季に於ける公園と相対せしむるやうしたき考へなり。教育会当初の設立予算は四千円にして、備付図書の如き区内各校の参考書籍中不要のものを持寄り、其他は有志の寄贈に俟つ筈なりし由なれども、著るしき区勢の膨脹を遂げたる今日にありては更に其規模を大にする必要あること勿論なるべし。而して其経費全部は有力家の寄附に依の外道なき故、何れ更に協議を重ねて後時期を見て右募集を発表すべし。
▲露語教授の必要 露語の必要は認め居れども、早晩設立せらるべき庁立商業学校及び高等商業学校は無論此間の消息に注目して露語を以て必須科目の一に加ふべし云々とて、別に此急勢に対する意見もなかりしと云ふ。
 
 
(小樽日報 明治40年10月27日・第6号)

 

  底本:石川啄木全集 第8巻
    筑摩書房
    1979(昭和54)年1月30日初版

 

  入力:新谷保人
  2003年10月27日公開