札幌市
「春と修羅 第三集」 先駆形・発表形
 
宮沢 賢治
 
 
    札幌市

遠くなだれる灰光と
歪んだ町の広場の砂に
わたくしは かなしさを
青い神話にしてまきちらしたけれども
小鳥らはそれを啄まなかった

           <先駆形>
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
    札幌市

遠くなだれる灰光と
貨物列車のふるひのなかで
わたくしは湧きあがるかなしさを
きれぎれ青い神話に変へて
開拓紀念の楡の広場に
力いっぱい撒いたけれども
小鳥はそれを啄まなかった

           <発表形>