スワン社HP Northern songs 2003年11月15日号

 
 
もう一度だけ、海岸へ 2003
 
新谷 保人
 

 今年の1月以降、帰国から1年めの10月15日までの間に出版された「拉致問題」関係の本や雑誌、テレビ番組で重要なもののリストを作成しました。すべての関連図書、テレビ番組に目を通すことはできませんが、今の内に図書館蔵書にしておいた方がよいと思うものをあげました。(八尾恵『謝罪します』だけは去年の出版物。)
 
 

 
謝罪します 八尾恵 著  文芸春秋 2002.6

 きっと、北朝鮮でも中東でも「連合赤軍」と同じことをやっているだろうと思っていた。それが事実であったことを知って、悲しい。悲しいことなのだが、ただ、永田洋子の『十六の墓標』を読んだ時の、あの何とも形容しがたい嫌悪感はなかったことが不思議だ。それは、なにか、北朝鮮という風土の持ってる「幼稚さ」(という言葉が悪かったら「素朴さ」「田舎っぽさ」とでも…)に由来するのではないかと私は思っている。
 キム・ヘギョンの時と同じ技をここでも使っている。人質にとった子どもの姿をちらつかせるなどということは相当に汚い人間の仕業に思えるのだが、なぜか、小西たち(よど号の連中)が、小娘の書いた「今、ペンをとった私達のきもちはとても複雑です…」なんていう母親宛の作文を添削指導している図を思い浮かべると、そのあまりの間抜けさにこっちの方が脱力してしまう。「連合赤軍」が人間の愚かさの仕業だとしたら、「よど号」は愚かな人間の生業とでも呼べばいいか。

 

 
      
 

 
北朝鮮に憑かれた人々 稲垣武 著 PHP研究所 2003.2

 北朝鮮のテロ国家ぶりが発覚したいまなお、「悪いのは日本。国交正常化を急げ」と囃し立てるのは誰か。「北」に憑かれた愚者の妄言を検証。(帯)
 戦後思想史を描いた稲垣氏の名著『「悪魔祓い」の戦後史』(文春文庫)より「北朝鮮」に関連した部分の再録が半分と、日朝首脳会談以後の「北に憑かれた人々」の言動を扱った書下ろしが半分。しかし、この本を読み終わったら、できれば『「悪魔祓い」の戦後史』に戻ってほしい。というのは、バカは「北朝鮮」について間違っているわけでは決してないから。ベトナムでも韓国でもソ連でも、世界中いたるところ間違いだらけ。(笑)
 「小田実のような人物を二、三名工作獲得すること」。これは、偉大なる首領金日成主席様が総連幹部に下されたご教示だそうで。ここまで云われたら、もう終わりだね。恥多き人生。

 

 
拉致と核と餓死の国 北朝鮮 萩原遼 著  文芸春秋 2003.3 (文春新書)

 金日成が背乗り・なりすましの第一号であることも、朝鮮戦争を仕掛けたのが北朝鮮であることも、その朝鮮戦争で失った労働力人口の補填に日本の在日朝鮮人に目をつけたことも、日本の中にもその策謀に同調して汚い利益をあげた人間がいたことも、みんな萩原遼氏に教えてもらった。でも、そんな気がふさぐようなことばかりを学んだわけではない。朝鮮の美しい詩や、在日の人たちとのかけがえのない友情の話は、私たちに、金正日政権を打倒し拉致被害者が帰ってきた…その日からの、未来の私たち人間の在り方をも指し示しているように感じる。萩原氏の著作は全部読んでほしい。特に、『北朝鮮に消えた友と私の物語』『朝鮮戦争』(どちらも文春文庫)の2冊は。現代日本の知性。
 蛇足:和田春樹の如き三文学者が、悔しくて、妬ましくて、でも頭が悪いから追いつけなくて、また悔しくて、妬ましくて、夜も寝られない気持ちはとてもよくわかる(笑) 本当に、あんたにはない知性、品性。

 

 
「横田めぐみは生きている」 安明進が暴いた「日本人拉致」の陰謀
講談社 2003.4 (講談社ムック)

安明進 この写真はご両親に送るために、本人に頼んでもらってきたのではないでしょうか。北朝鮮はこの写真を提供する前に「93年死亡」というリストをすでに出しています。本人に写真を出してもらったのはその発表のあとだったと思います。めぐみさんは、93年に死んだとする北朝鮮の発表に逆らうために、一番最近の写真をご両親に送ることで、「私はまだ生きています」というメッセージを、伝えたのではないでしょうか。
(対談 横田滋・早紀江さん夫妻×安明進)

その通り!これが二十歳の娘さんに見える奴は、救いようのないバカ。
 

 
    
 

 
奪還 引き裂かれた二十四年 蓮池透著 新潮社 2003.4

 「私は中国にパイプがあるから、そのルートで何とかしてあげる。でも、誰にも言っちゃだめよ」 ある日、蓮池家に電話がかかってきて、こんなことを言ったそうである。夫の選挙が間近に迫っていたから。もちろん選挙が終れば、その後音沙汰なし。もちろん「中国ルート」など、ただのハッタリ。こんなのが田中真紀子。
 「私は国連にパイプがあるので、その筋から働きかけましょう」 拉致被害者の家を一軒一軒まわって、「コメは簡単には出さない」、「連絡はいつでも下さい。頑張って下さい」と言って歩いた外務政務次官(当時)。ところが、これは家族からコメ支援決定を目隠すためのダミー。とっくに東京ではコメ支援を発表済み。こんなのが、今や「朝生」などで若手の旗頭とか呼ばれてギャーギャー煩い山本一太。
 無法国家と無能国家。「私たちは、二つの国と闘わねばならなかった」。その無能国家の実働部隊、猿回しの猿たちの生態が克明に描かれていて興味深い。人類の愚かさ記念館に、ぜひ忘れず陳列すべきであろう。

 

 
家族 北朝鮮による拉致被害者家族連絡会著 光文社 2003.7

 今までの拉致問題の本、被害者家族の手記にはなかった新たな展開が随所に見られる。例えば、田口八重子さん(李恩恵)の家族からの反証が初めてまとまった形で発表されたこと。あるいは、従来は別枠で語られてきた寺越武志さんほか2名(昭二さん、外雄さん)の拉致が「家族会」の名の下に一本化されて述べられていること。拉致された曾我ひとみさんが、今度は「被害者家族会」の一員になるという新展開など。
 金丸信の「キャバレーのホステスが一人二人消えたって、それが何なんだ」発言に象徴的に顕われている意図、田口八重子さんのイメージをワイドショーの「李恩恵」レベルに歪めて、馬鹿騒ぎのうちにうやむやにしてしまいたい…(それは「大韓航空機爆破事件」「金賢姫」を隠蔽してしまいたい北朝鮮の意図にも合致したものである)を粉砕するためには、この飯塚繁雄氏の反論はどうしても必要なものであった。その意味で、去年あたりから公の場にも積極的に登場するようにしている(と思われる)氏の勇気と人間性には感動しています。拉致被害者救出運動全体を勇気づけるものである。このような活動があればこそ、今年10月の地村(浜本)富貴恵さんの「一時期、田口さんといっしょに暮らしていた」証言のような、子どもを人質にとられている拉致被害者にしては相当に踏み込んだ重大発言も飛び出してくる。
 寺越武志さんと友枝さんの親子は、マスコミとはまたちがった意味で日本の害毒である「社会党」によって救出運動が歪められた典型的な事例に私には思える。これは、(現在家族会とは別歩調を歩んでいる札幌の石岡さんにも言えることかもしれないが)いつの日にかは、旧社会党−現社民党などのリベラルな阿呆たちがたれ流してきた実害については(金丸信や野中がばらまいた実害と同じように)歴史的検証されてしかるべきと考える。今回の寺越家の合流はその日が近いことを予感させる。

 

 
「世界」とはいやなものである 関川夏生 著 NHK出版(日本放送出版協会) 2003.7

 北朝鮮・韓国を考える上での必読図書、『退屈な迷宮−「北朝鮮」とは何だったのか』(新潮文庫)も、2003年4月に『「北朝鮮」とは何だったのか−退屈な迷宮』とタイトル、サブタイトルを入れ替えて増補版でベストセラーズから発行された。こちらもぜひ読んでください。
 問題は、まさしく「北朝鮮とは何なのか?」である。これを考えて行く時、なぜ関川夏生の著作が私にとって必要なものなのかを伝えるのは難しいのだが。(たしかに「拉致被害者救出」という課題については、関川夏生の本を読んでいようといまいと何の影響力もない…) しかし、玉城素から萩原遼までの数あるアプローチをもってしても捕まえられない「北朝鮮」というものは確かにあるのだ。萩原遼氏になくて、関川夏生にあるもの。私には、それは、日本の「戦後民主主義」に対する懐疑ではないかと考えています。(あるいは、羞恥心か…) 例えば映画『キューポラのある町』への反応、そこからの想像力の跳び方。両氏とも、「北朝鮮とは何なのか?」の問いの裏には常に「私とは何なのか?」という問いが貼ついていて、その文章や品性の美しさを確かなものにしているのだが、その味わいという点についてだけ、私は少しだけ関川夏生の方に肩入れしてしまうということなのかもしれない。(言っちゃぁなんだが、あの日の吉永小百合は最高だった!戦後、あれを越える「美女」なんかいない。)
 最後にひとつだけ。『「世界」とはいやなものである』に収められている「朝鮮六百年の謎“両班(ヤンパン)”」はとても重要な発言。

 

 
      
 

 
TV 北朝鮮拉致「めぐみ、お母さんがきっと助けてあげる」 (テレビ東京/2003.5.15)

 テレビ東京系列の各放送局で今年の5〜6月頃に放映された。シナリオの底本に、1999年に出版された横田早起江さんの『めぐみ、お母さんがきっと助けてあげる』(草思社)が使われている。1999年以降の展開については、2002年12月出版の荒木和博編著『拉致救出運動の2000日』(草思社)。
 去年、横田めぐみさんの映画を作っている…と言われていたのは、このドラマのことなのだろうか。テレビドラマとは思えないほどの脚本の緻密さ、正確さ。相当に拉致問題関係の資料を読んでいることをうかがわせます。そして、キャスティングの見事さ。日本の芸人はいい仕事をした!と声を大にして言いたい。以下、敬意を表してできる限り配役を記しておきます。(全部書き込めなくて申し訳ない…)

□監督/淡野健 脚本/清水曙美
■横田めぐみ…若原めぐみ 横田滋……加藤剛 横田早起江……竹下景子
■蓮池秀量……長門裕之 蓮池ハツイ……南田洋子 ■蓮池透……風間杜夫
■奥土一男……滝田祐介 ■浜本雄幸……神山寛
■地村保………左右田一平 地村と志子……中村たつ
■市川健一……小林尚臣 市川龍子……澤井孝子
■増元正一……田村高廣 増元照明……江藤潤 平野フミ子……片山万由美
■有本昭弘……高松英郎 有本嘉代子……庄司歌江
■斉藤夫妻……木村翠・野村信次 小倉先生(クラブ顧問)……石原良純 小林珠代(隣家の主婦)……泉ピン子 石高健次……三浦浩一 渡辺陽子……小林綾子 ほか

 確認のため、『拉致救出運動の2000日』を読み返す。それぞれの時期に出された論文・声明・議事録などが「データ」にしっかり保存された第一級の資料。つい読み耽り、怒りを新たにした。
 

 
TV 北朝鮮拉致・25年目の真実  (フジテレビ/2003.9.14)

■阿部雅美(当時、産経新聞社会部記者)……石黒賢
■石高健次(当時、朝日放送TVプロデューサー)……布施博
■兵本達吉(当時、日本共産党国会議員秘書)……堺正章

 北朝鮮による日本人拉致の追求は、1978年に連続して起こったアベック失踪事件の解明から大きく展開した。その失踪を足で追った当時の産経新聞社会部記者・阿部雅美氏本人のインタビューと石黒賢扮するドラマとの同時進行で番組は進行する。以下、石高健次氏、兵本達吉氏についても形式は同じ。この3人の追求のドラマを通じて日本の拉致被害者救出運動が立ち上がって行く様を描く。
 改めてだが、人々の血の滲む小さな努力(や幸運)が積み重なって日本人拉致の全貌が明らかになって来たことを痛感する。まさに「あの時、犬が吠えなかったら…」だ。富山で起こった唯一の拉致未遂事件の家族がふともらした一言には、今でも血の凍るような想いを感じる時がある。犬が吠えなかったら、もちろん拉致は行われていた。遺留品はない。証拠はない。北朝鮮による拉致はなかった…

 

 
TV 追跡5000日!北朝鮮拉致スクープ!3つの新事実 (テレビ朝日/2003.9.15)

 新スクープとは、@八尾恵と有本夫妻、一年ぶりのスタジオ対面、A石岡さん、松木さんの拉致現場マドリッドで、同じく拉致されかかった女性の回想、B朝鮮民主統一救国戦線議長「朴甲東」のテレビ初登場、C去年の被害者5人の帰国時に、平壌空港で撮影された写真の初公開などらしい。いずれも朝日放送ならではの特ダネ・お宝映像なのかもしれないが、気持ちはどんどん冷えて行く夜であった。
 何の「新事実」もなかったけれど、テレビ東京の『めぐみ、お母さんがきっと助けてあげる』は、どんな芸人にも、芸人としての魂や人間としてのプライドがあることを立証したすばらしい仕事だった。それにひきかえ、この花の浮草稼業はどうしたことだろうか。時間の無駄。電力の浪費。100点満点で、「5点」。

 

 
TV 緊急生放送「奪還」 (日本テレビ/2003.9.17)

 「連続アベック失踪事件」(蓮池薫さんほか拉致)、「宇出津事件」(久米裕さん拉致)、「辛光洙事件」(原敕晃さん拉致)などの再現ドラマを、スタジオの福沢朗アナウンサー、真中瞳、ゲストの蓮池透さんと丸田光四郎さん(蓮池薫さんの親友)の4人で見て行く。タイトルを蓮池透著『奪還』と同じくしているが、特に『奪還』の内容に忠実なわけではない。再現ドラマも過去の放送されたワイドショー・特番からの寄せ集めで目新しいものはなかった。
 が、番組冒頭のところで1974年の「文世光事件」(朴正煕暗殺未遂事件)のニュースフィルムを出してきて、これを日本人拉致の新展開元年と位置づけている点は今までにない解釈と感じる。
 つまり、従来の「日本・韓国潜入の土台」〜「背乗り・なりすまし」目的に加えて、この事件の思わぬ成功(まんまと暗殺直前まで近づけた…)によって、「日本人」(実際の日本人も、「日本人」という名も)を対南工作に使うという新しい需要がこの70年代に生じてきたのだという説。たしかにこの説には説得力がある。なぜか、この時期に日本でも韓国でも「高校生」の拉致が集中的に起こっていたり、60年代のエンジニアや実務担当者中心の拉致が70年代に入ると「田口八重子さん(李恩恵)」のようなサービス業から「横田めぐみさん」のような中学生に到るまでの多種多様な日本人拉致に変化して行く理由(たぶん「日本人化教育」のための教師の需要が増えたのだろう…)がよくわかる。
 ひきつづき「文世光事件」については調べたい。また、これに関連して、現在何らの解明もされていない「文世光」のような在日朝鮮人子弟への北朝鮮関与の実態についても調査が必要と感じる。ここでも拉致や洗脳は行われているのではないか?

 

 
TV 私の家族をかえしてください NHKスペシャル (NHK総合/2003.9.21)
TV 拉致被害者の一年@〜B BSプライムタイム (NHK衛星第一/2003.9.)

 『私の家族をかえしてください』は、BSプライムタイムで放送された『拉致被害者の一年』3回分を1時間番組に短縮したもの。「日本で元気にしている」とウソを教えられていた曾我ひとみさんが、羽田空港のタラップで母・ミヨシさんの姿を探している映像は、正直、見ているのがつらかった。身が捩られる想いである。絶対に赦せん!