藻しほ草 (七) (啄木撰)


          ○

                    花峯

相見てはいふべき事もわすれぬとややありて云ふ美しき人

云はむとして云ひえずあはれ我が(くち)も用なしただに(かほ)る息する

(しほ)ひいて海せばまりぬ()をやけば日こそ落ちぬれ砂山舟(すなやまぶね)

          ○

                    新人

病みぬれば乱れはてにし我が髪に白き薔薇(ばら)ちる秋の夕ぐれ

何ものか(ほこ)とりわめきらうがはし戦ひすらし我が胸に居て

春の(よる)はものぞなつかし(かう)たいて古き(ふみ)などとり()ても見ぬ

 

[小樽日報 明治四十年十一月二十六日・第三十号]


※テキスト/石川啄木全集・第8巻(筑摩書房 昭和54年) 入力/新谷保人

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