○
庄内渓月
たふれたる
さびしさの心まどひか袖払ふ人のれはひす雪の夜の
こともなくほほゑみありし我が君にやつれ見ゆると喜ぶ日かな
我が
○
実相寺一二三
秋の丘黄金の鎧まばゆくも夕日匂ひぬ
髪すけば落髪に泣かぬ悩ましく老を
秋の雨こゝろ
耳のほとりわが名呼びます
○
高田紅花
西の空
さびしみの深き空ゆく秋雲のみだれをながめ心うつるも
ゆゑもなく春野をめぐりゆゑもなく君が名よびし昔こひしき
秋の日は
秋の水
今日もまた夕べとなりぬ我が心なぐさむ知らず故郷を思ふ
秋の雨夜の香つめたく細る灯に面影うつる名をよびてみぬ
[小樽日報 明治四十年十一月十日・第十八号]
※テキスト/石川啄木全集・第8巻(筑摩書房 昭和54年) 入力/新谷保人