藻しほ草 (五) (啄木撰)


          ○

                    新人生

わが少女(をとめ)もの泣き死にし葬むりの()の雨くろし千草(ちぐさ)枯れなむ

君泣けば我また泣きし秋の夜の板庇(いたびさし)うつ時雨(しぐれ)しのばゆ

秋の牧さびしきに居て物言はず人をたのまぬ友たづねける

秋の(よる)小暗(をぐら)き辻に飴をうる女声(をんなこゑ)よし月踏みゆけば

海士(あま)の子が()()に見やる夕浜の()をやく(けぶり)行方(ゆくへ)かなしも

否といふ君をうらまず我がこころ我をはかなみ涙に落つる

          ○

                    高田紅花

雁わたる秋空ながめものとなく人恋ひ泣くに我を忘れぬ

雨ふれば物ぞ思はる病みこやす窓の芭蕉に秋風のして

霰降るさは限りなき天の野の神の戦の羽々矢かも降る

櫓の音に欸乃(ふなうた)まじる哀調に覚めてゆくなる石狩の朝

秋の旅白石さむく月氷る伽藍の跡の羅馬路に入る

うごかざる秋雲白う照りふくめ(すゞ)風吹きて野は明くるらし

 

[小樽日報 明治四十年十一月七日・第十五号]


※テキスト/石川啄木全集・第8巻(筑摩書房 昭和54年) 入力/新谷保人

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