藻しほ草 (四)
○
庄内渓月
有明の波うす紅き磯をゆき心かへりぬいにしへの代に
西の海潮路の果の雲黄なる下ゆく舟よ神や乗るらむ
夜の星の思ひあまれる白たまの涙うつくし園の朝露
おばしまに天の川みる宵ふけて背戸のたかむら秋風ぞ吹く
かぐはしきみ魂のいぶき咲きいでし君が墓なる竜胆の花
○
片尾白眼
はうきぼし王座につかずかの虚空翔る自在を喜びて去る
ああ芭蕉もろ羽折れたる大鳥か秋風吹ればはら/\と鳴く
やぶれたる心を縫はむしろがねの匂ふ糸ひけ君が御手より
[小樽目報 明治四十年十一月六日・第十四号]
※テキスト/石川啄木全集・第8巻(筑摩書房 昭和54年) 入力/新谷保人