藻しほ草 (三)


          ○

                    実相寺一二三

白の菊くれなゐの菊黄の菊の中を行く子の朝寝髪はも

吾妹子が針の運びに思ひこめぬかたみの衣に涙す

秋の蝉じゝと音になく深山木の庵に修法(ずはふ)す山法師ども

          ○

                    小高草影

(ちまた)喚き君を見ぬ日は帰り来てわびしら心酒(こゝろさけ)に物問ふ

ひとり居の窓に風吹きはら/\と落葉にまじり心散るかも

          ○

                    緑衣生

ふためきて君が跡追ひ野路(のぢ)走り野菊がなかに寝て空を見る

かぎりなき空のかげ()をゆく鳥の雲に入る見て君を忘るる

一すじの並木のみちの春雨に小傘(をがさ)して来る君をこそ待て

ひと()見ず心かはきて死なまくも君ぞ恋しきいかにせましや

 

      ●投稿歓迦……編輯局石川啄木宛

[小樽日報 明治四十年十一月一日・第十号]


※テキスト/石川啄木全集・第8巻(筑摩書房 昭和54年) 入力/新谷保人

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