藻しほ草 (二)


          ○

                    実相寺一二三(小樽)

時雨ふるゆふべ淋しし歌筆に草書したり思出の巻

山を見るみなみの窓にしら菊の花咲き出でぬひとり居の秋

          ○

                    啄 木

かず知れぬくれなゐの鳥白の鳥君をかこめり花の散る時

はつ/\と心煙(こゝろけむり)しもえさかる(たつみ)あがりの風吹き来しや

火の如き顔して歌ふ幾人(いくにん)酔泣(ゑひなき)すなる子も交りゐぬ

相慣れて云ふこともなし()(かた)の恋をかぞへぬ心々(こゝろ/\)

君を恋ひ君を得つるを恐ろしき懲罰(ちやうばつ)()るわりなきかなや

心今君をわするる天地(あめつち)(いへ)する知らぬ浪人といへ

はなやかに物いふ人も手をとれば(ほの)にうつむくをかしき夕べ

たぐひなく冷たきものと君が名を呼びても見まし汗する日ゆゑ

()()みな火にこそ死ぬれよしゑやし心焼かえて死なまし我も

 

          (投稿歓迎……編輯局石川啄木宛)

[小樽日報 明治四十年十月二十六日・第四号]


※テキスト/石川啄木全集・第8巻(筑摩書房 昭和54年) 入力/新谷保人

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