五月から始まる啄木カレンダー
デジタル篇
 
 

 
明治41年日誌 (1908年)
(「啄木勉強ノート」HPより引用)
 
明治41.1.22 釧路新聞の記者となる
夜具の襟が息で真白に氷つて居る。
 
 1月22日
 起きて見ると、夜具の襟が息で真白に氷つて居る。華氏寒暖計零下二十度。顔を洗ふ時シャボン箱に手が喰付いた。
 日景主筆が来た。共に出社する。愈々今日から釧路新聞の記者なのだ。
 昨日迄に移転を了した新社屋は、煉瓦造で美しい。驚いたのは、東京で同じ宿に居た事のある佐藤岩君が三面の記者になつて居た事で、聞けば同君は此処に来てから料理屋の出前持までやつたとの事。モ一人は上杉儔といつて、前中学教師、物理の先生とは寔に意外な話だ。
 職工のおとなしいに驚く。
 
 1月23日
 今夜、佐藤氏の宅から此洲崎町一丁目なる関下宿屋に移つた。二階の八畳間、よい部屋ではあるが、火鉢一つを抱いての寒さは、何とも元へぬ。
 
 1月24日
 寒い事話にならぬ。今日から先づ三面の帳面をとる。日景君から五円かりて硯箱や何やかや買つて、六時頃帰宿。社長の招待で編輯四人に佐藤国司氏と町で一二の料理店喜望楼へ行つた。芸者二人、小新に小玉、小新は社長年来の思ひ者であるといふ。編輯上の事何かと相談した。機械が間に合はぬので、三月初めまでは現在の儘で時々六頁出すことにした。
 町にはモ一つ北東新報と云ふ普通の四頁新聞が此正月出来た。碌な記者も居ぬげれど、兎に角好敵手たるを失はぬ。社では先つ此敵と戦ひつつ、順次拡張の実をあげねばならぬ。日景主筆は好人物、創刊以来居る人ださうで度量の大きくないと頭の古いが欠点だといふ。佐藤国司氏は理事と云つた様な格で、社長の居ぬ時万事世話をすると云ふ。一見して自分の好きな男だ。
 机の下に火を入れなくては、筆が氷つて何も書けぬ。
 
 1月25日
 夜、日景主筆が遊びに来、隣室に居る北海旭新聞の支社長甲斐昇君とも初めて逢つた。方々へ手紙を出す。金田一花明君へも長いたよりを認めた。
 
 

 
明治41年1月22日
釧路新聞の記者となる
 
 起きて見ると、夜具の襟が息で真白に氷つて居る。 (1月22日日記)
 
 机の下に火を入れなくては、筆が氷つて何も書けぬ。 (1月24日日記)
 
 いやー、凄まじい釧路の寒さですね。
 
 大雪の小樽から極寒の釧路へ。同じ北海道といっても、小樽・札幌の冬と釧路の冬はかなりちがいます。冬のスポーツに喩えれば、スキーとスケート競技くらいのちがいがあります。道東は雪が少ないんですね。(ここのところ観測史上異例の大雪に道東も大変みたいですが…) そのかわり、とてつもなく寒い!抜けるような青空に、耳がキーンとなるような零下二十度の空気、それが道東・釧路の街です。
 
 さぞかし、啄木はびっくりしたでしょうね…
 
 
 1月19日の北海道新聞に、釧路啄木研究会事務局長の北畠立朴(きたばたけ・りゅうぼく)氏の文章が載りましたので引用させていただきます。釧路の街と啄木の関係がとてもよくわかります。(※ 漢数字の表記はアラビア数字表記に改めました。)
 

 
啄木の歩いた道
北畠立朴
 
 1月21日で、啄木が釧路に来て96年目を迎える。当時の釧路はランプかロウソクの生活で、夜の9時半に着いた啄木は月に照らされた雪明かりの道を浦見町まで歩いた。
 今ではその道も舗装されて30分余りで歩けるが、啄木は1時間ほどかかったと思われる。
 昨年から「歩いて啄木の追体験」とのタイトルで市民向けの特別講座を開き、啄木と同じ道を歩いている。港町の夜は風が冷たい。参加者の半数は六十歳を超える方々で、みな震えながら歩く。
 啄木が初めて歩いた釧路の道をたどったときは、前日に降った雪を踏みしめながら小高い山の上まで歩いた。
 明治末期、天才歌人の石川啄木が76日間釧路に住んでいたことを知る市民が少なくなった。発祥の地の米町を中心に啄木歌碑は25基立っているが、すべての所在地を知っている人は極めて少ない。
 盛岡市の33基、岩手県玉山村の28基には及ばないが、釧路は啄木顕彰では日本一だと思っている。
 市内の路線バスに「たくぼく線」があり、啄木歌を書いたバスが走る。啄木が歩いた大通りは「啄木通り」となり、街路灯には啄木フラッグが下がる。南大通商店会は「啄木通り商店会」。この街は今でも啄木の足跡が息づいている。
 
(北海道新聞2004年1月19日朝刊、コラム「朝の食卓」より)

 
 釧路の街。私も、なんか啄木の歌碑がやたらに多い街だなぁ…と感じたのですが、まさか25基も建っているとは思いませんでした。別の意味で、岩手県玉山村ひとつだけで28基もある…というのも、なんか凄い話に思えます。(釧路+玉山村+盛岡で、すでに86基ですよ!こんな文学者、他に例がない…でしょうねぇ)
 
次回は「1月26日」
 

 
啄木転々
「五月から始まる啄木カレンダー」改題
短歌篇 日記篇
 
絵葉書 / 付:2003.5〜2004.4カレンダー
各12枚組 プラスチック・ケース(スタンド式)入り